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第11章 コンクール

(2015.5.1追記)

 「コンクールに出ない・上の大会を目指さないバンドはダメなバンド」という意識を持っている方がいるとすると、それは日本の吹奏楽界という非常に狭いフィールドでしか物を考えられなくなってしまっている証かもしれません(これが「狭い」と意識できない方は重症です)。コンクールが技術の向上に一役買っていることは否定しませんが、それだけに固執した考えはどうでしょうか。

 コンクールに出場せずとも、各種演奏会や老人ホーム等への慰問演奏で最高のステージを目指すという方法も一方では存在する(むしろ吹奏楽界以外ではそれが標準の業界もあり)ということは、たとえコンクールバンドであっても意識しておかないと、卒業後に吹奏楽など続けようとは思わないという学生を量産してしまうことになりかねません(全国出場学校の卒業生ですら何らかの形で老後までずっと音楽を続けている人などほぼおらず、偉そうな「聴き手」もしくは「評論家」に成り下がっていたとすると悲しいですね)。少なくとも「全国大会を目指す」か「適当にやる部活」の二者択一しか提示できない顧問の先生はいかがなものかと(cf.「響け!ユーフォニアム」)。

 忙しい社会人になったとしても準備時間が少なくても演奏をよりよく仕上げる方法、盛り上がるステージの創り方、訪問演奏での先方との調整方法、繰越金が無駄にたまっていかない予算管理の実務、押し巻きしないタイムテーブルの作り方、アンケートでは鉛筆の代わりにペグシルを使うとよいこと等、これらを学ぶ(顧問にとっては教える・学ぶ機会を提供する)ことは、コンクールで良い演奏を目指すのと同じくらい大事なはずです。

11-01. 団結式

 

 コンクールに向けて、部員同士の結束を高め、士気を盛り上げるために「団結式」みたいなものをやってもよいでしょう。部員全員でコンクールの目標を設定して、ひとりひとり抱負を述べるなどして、全員で一つにまとまり音楽を作っていこうという意識を持たせます。音楽のような、集団で一つのものを作り上げるという形態においては、こういった精神面でのまとまりも欠かせません。

 


11-02. コンクールの選曲

 

 コンクールの選曲はかなり苦労します。なにしろ、選曲で結果がある程度決まってしまう場合もあるものだからです。

 そのバンドに合わせた編成で、効果的な曲を選ぶのはとても大変です。音源があれば参考にしつつ、自分のバンドの弱い所・強い所を考慮して、選曲します。 なお、あまり楽譜上で簡単な曲はコンクール向きではありません。ある程度難度が高い曲の方が、コンクールという場の性格上有利です。

 また同じ曲をやるにしても、色々な編曲バージョンがあるという場合もあります。注意しましょう。

 


11-03. 課題曲

 

 コンクールにおいて、全国大会につながる部門(中学・高校は大編成)では、本番「自由曲」の前に「課題曲」を演奏します。

 コンクール課題曲は毎年、一般公募から選ばれた曲と、作曲者に委嘱(いしょく)して作ってもらった曲が課題曲として設定されます。「行進曲」の年と「行進曲以外の曲」の年があり交互に実施される時代があったり、関係ない時代があったりします。

 コンクールで課題曲を演奏する団体は、例年決まった時期に課題曲の楽譜・CDなどの申し込みがあるので、そのときに買いましょう(バンドジャーナルや全吹連ホームページに申し込み要項が掲載されます)。

 


11-04. 出演順のくじ引き

 

 コンクールでなによりも怖いのが、出演順をきめるくじ引きです。午前の早い時間に当たってしまったら、かなり不利となります。

 もし午前の早い時間に当たってしまったら、その対策をしなければなりません。周囲の騒音問題もありますが、できるだけ練習を朝型に切り替えましょう。 朝、音が出せないなら、みんなで集まってラジオ体操をするのもいいでしょう。とにかく本番の時間にベストコンディションに持っていけるように、工夫した練習をしていきましょう。

 


11-05. 原調への書き換え

 

 クラシック編曲作品に多いのですが、吹奏楽編曲版の調が原曲の調(原調)と変わっている場合があります。そのときは、楽譜を原調に書き直すか、あるいは 原調で編曲したものを買い直した方がよい場合もあります。吹奏楽はフラット系の楽器が多いので、調号がたくさんつかないようにという配慮で調が変えられる ことが多いのですが、原調でやる方がよい場合もあり、検討します。

 


11-06. 技術面を磨こう

 

 曲を練習していくときは、「もっと音楽的に」と表現面の研究にかたよりがちなバンドもあるでしょう。しかしコンクールという場では、表現面も大事ですが、縦の線・音程などの「技術面」の方もおろそかにできません。いくらよい表現をしようとしていても、縦の線がバラバラだったり音程が悪かったら、聴く気にはなりません。指導者はこういった技術面の練習を積極的に取り入れていきましょう。

 


11-07. カットの嵐

 

 コンクールでは制限時間に厳しく、たった1秒のタイムオーバーでも失格になります。制限時間におさまる曲なら良いのですが、どうしてもおさまらない場合 はカットが必要となります。カット問題は別に触れますが、ここでは「コンクールだからカットはしょうがないや」と割り切って考え、時間におさまるようにカットしましょう。カットをするときは、 音楽的につながるかどうかを確認しましょう。

 またカットは、遅くとも本番の1~2週間前には確定しておきましょう。あまり本番直前にカットすると奏者も混乱しますので。

 


11-08. ステージ配置表

 

 コンクールでは、椅子や譜面台をどのように配置するかを書いたステージ配置表を提出します。当然ですが、見やすく分かりやすく書きましょう。 Bs.Cl.やBar.Sax.は、普通の椅子の代わりにピアノ椅子を使った方が吹きやすいということがありますので、奏者に確認を取りましょう。また、 楽器を持ち替えするために椅子が余分に必要になる人もいますので確認しておきましょう。

 


11-09. 楽器搬入・搬出

 

 コンクールでの楽器の搬入・搬出は、タイムテーブルにより時間が設定されています。搬出のときは、あらかじめトラック内にどのように積むかを考えておいて、なるべく短時間で完了しましょう(他団体の迷惑にならないためにも)。

 また運が悪いと、搬入・搬出の時に雨がふることもあります。その時は、極力楽器を濡らさないようにしましょう(特に打楽器)。ビニール袋で作った雨よけシートなどを用意しておくと安心です。

 

 コンクールでは、搬入してきた楽器や私物を一時的に置いておく楽器置き場が確保されています。各団体でスペースが決まっているので、できるだけつめて置き、隣の団体の邪魔にならないようにしましょう。

 


11-10. 審査

 

 コンクールでは審査員が各団体の演奏に点数を付けて、賞や代表校が決まります。「音楽に点数をつけるなんて」という声もありますが、とりあえずコンクールという場の性格上、これは仕方のないことです。審査してもらいたくなかったらコンクールに出なければいいことです(コンクールに出なくても、活発な活動 をしているバンドもあります)。しかし現状として色々な事情から、大半の団体はコンクールに出ています。

 その審査について、特に最近「楽譜の指示通り演奏しないと場合により失格」という厳しい姿勢が取られていますが、こうした楽譜至上主義に対して「団体により色々な演奏があってこその音楽ではないか」と指摘する声もあり(2013.4.21テレビ朝日「題名のない音楽会」での岩井直溥氏の指摘等)、そのあり方が問われています。著作権の同一性保持権との兼ね合いが難しい部分でありますが、あまりに厳しい方向に触れると揺り戻しの声が大きくなるのも当然で、そのバランスについて検討する必要があります。

  • 1989年度課題曲であるポップス・マーチ「すてきな日々」はテンポ指定が無く、楽譜にとらわれない自由な演奏がコンクールを沸かせました。
  • 古くは1977年度課題曲「ディスコ・キッド」では、楽譜に無い「ディスコ!」というシャウトを入れたりテンポやドラムの奏法を自由にしたりしても、それらが理由で全国大会でも失格となった団体はおらず、大いに盛り上がったとのことです。

 審査方法は都道府県・支部により異なります。「技術」「表現」についてそれぞれ5段階で評価したり、またいわゆる「上下カット」という、最高・最低点を各1名分カットし集計する方法をしたりと、色々あります。

 


11-11. 賞

 

 これも都道府県・支部により異なることですが、賞の設定にもいろいろあります。全国大会ではすべての団体に金賞・銀賞・銅賞のいずれかが与えられます (失格は除く)。この方式を採用している所も多いです。しかし地区大会・県大会あたりだと「銅賞=参加賞」のようになってしまい、銅賞の価値があまりなくなってしまいます。

 金賞・銀賞・銅賞は一部の団体に与え、他の団体は「賞無し」としている所もあります。また金賞・銀賞・銅賞ではなく「優秀賞」「奨励賞」といった賞を設けている所もあります。地域によって色々です。

 


11-12. 写真撮影

 

 コンクールの本番が終わり、開放感に浸っているときに「写真撮影」がある大会があります。楽器を持っての全体の集合写真を撮った後、各パートorセク ションごとに写真を撮ります。ここでの写真はもう一生の記念になるでしょう。また、全国大会級の大会になると、ここでの写真がバンドジャーナルに載ったり します。

 


11-13. 運営の力 

 

 私たちはコンクールの舞台に上がって演奏するだけですが、その裏では多くの人々が裏方の「運営」として働いています。各学校の先生や高校生などが、進行・誘導・駐車場・舞台配置・放送などでがんばっています。こういった人達のおかげで、私たちは良い環境で演奏できるのです。運営の方々の苦労も、忘れないようにしましょう。

 


11-14. 世代交代

 

 コンクールが終わり三年生が引退するというバンドも多いと思います。三年生は、部活を引退するときに、考えてみてください。「自分は、自分の持っている知識の全てを後輩へ伝えたか」。

 三年生は、これまで先輩から教わったことを、後輩へ伝える使命があります。それが何代も続きやがて、そのバンドの伝統ができてくるのです。楽器の奏法、 楽譜の知識、果てはコンクールの裏話などを伝え切って初めて、後輩にバトンが渡せるのです。残された後輩が路頭に迷わないように、先輩としての最後の仕事をやり遂げましょう。

 


11-15. 卒業後は?

 

 三年生は引退後すぐ受験勉強や就職活動に入ってしまうかもしれませんが、無事にその学校や会社に入れた後に自分はどう音楽と接していくかも考えてみてください。

 学校や地域の吹奏楽団に入り引続き吹奏楽を楽しむのもいいでしょう。また学校や地域によっては吹奏楽以外に、管弦楽団やギタマン、リコーダーサークルなど様々な音楽団体がある場合があります。さらに自分ひとりだけで活動をしていくこともできます(「リコーダー活動概論」をご覧ください)。他の音楽分野に行ったとしても、吹奏楽の経験は非常に役に立つことでしょう。

 

 せっかく続けた吹奏楽の経験、これを無駄にしてしまうのは非常にもったいないです。吹奏楽を続けるにせよ違う道に行くにせよ、一生音楽と楽しく付き合っていってもらえればと思います。

 

(2013.11.3追記)

・吹奏楽で全国目指すなんて時間が有り余ってる学生時代にしかできない。だから大人になったらあきらめて聴き手になろう……ではつまらないと思います。吹奏楽自体でも多様な楽しみ方があるし、その経験を活かし他のフィールドで活躍するのも面白い。生涯学習の素地を作るという部活動の意義も意識する必要があります。特に学校教育の現場にどっぷりつかっている教員の中には、残念ながら見方が偏ってしまっている方もいるように見受けます。様々な選択肢を生徒に示すことができる柔軟性をぜひ持って頂ければと思います。

吹奏楽は全国目指さなきゃやっちゃいけないんだというスリコミは、コンクール前にはやむを得ない部分はありますが、終わった後にその誤解を良い形で解いてあげないと、せっかくの経験がもったいないです。また音楽は(または芸術は)吹奏楽だけが至上という誤解も同様に、コンクール後に適切に解かないといけません。

・吹奏楽を大人になって続ける人もいる一方、そこで得た様々な知識を活かしてボカロPになる人もいれば、ゲーム音楽のアマオケの編曲家になる人もいれば、吹奏楽部を舞台にした恋愛漫画を描く人もいます。卒業後のステージは学校が与えてくれるのでなく、自ら切り開くと色々面白いということをぜひ部活を巣立つ人たちに伝えたいものです。