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since 2002.10.14

第3章 楽譜の基礎知識

はみだしコラム:もっと幅広い視野を

 たとえばクラシックからジャズ・ロック・民族音楽まで幅広く扱っているテレビ朝日「題名のない音楽会」は日曜朝9時に放映されていますが、吹奏楽部の部員および顧問教員はその時間は毎週練習があり視聴できないとしたら、せっかくの幅広い古今東西の音楽に触れる機会を逃していることになります。

 夏のコンクールに向けて同じ曲をひたすら練習する、吹奏楽以外の音楽は感覚が狂うから聴いてはいけない、無駄な体育会系意識(「部室の掃除は下級生がする」「上級生に対しての挨拶は最敬礼」等の古くさい貧困な上下関係でしか団体を統率できないマネジメント力の貧弱さ)、顧問や先輩の機嫌を伺いながら活動する、大人数であるため自らが楽団運営を経験する機会が無い(顧問や保護者任せ)、湯水のような練習時間がなければ活動できないので演奏側は学生のうち・大人になったら聴く側に回る等、吹奏楽界の常識は世界の音楽の非常識であることも往々にしてあります。

 なかなか特効薬が無いのもよく分かりますが、少なくとも部員のみならず顧問教員も含めこうした問題意識を常に持ち続けることが、卒業しても(吹奏楽だけでなく幅広い意味での)音楽を生涯続けられる人々を増やすことに繋がるでしょう。

3-01. 楽譜に忠実に

 

 我々演奏家は、作曲者が意図したイメージを「楽譜」という形で受け取り、その楽譜により作曲者のイメージを再現するのが仕事です。なので、楽譜に忠実に演奏することはとても大切です。「自分のイメージでやりたい」というときも、まずは楽譜が全部できてから。細かい「アーティキュレーション」や「ダイナミクス」、「楽語」を見落とさないようにしましょう。

 

 「吹奏楽の指導者って楽譜に書いてあることを簡単に無視するし、ちょっとした思いつきでどんどん改変しちゃう」という声があります。指導者は自分のイメージを楽譜に意味付けすることも必要ですが、作曲者のイメージが詰め込まれている「楽譜」は尊重しましょう。

 


3-02. 楽譜に書かれる情報 

 

 楽譜には音符の他にも、作曲者が指定した様々な情報が記載されています。「アーティキュレーション(スタッカートやスラーなど音符についてるもの)」や「ダイナミクス(フォルテなどの強弱)」、「楽語(espr.など発想用語)」などがそうです。特に楽語については、楽譜が配られたときに音楽辞典を見るなりして全部調べておくのが鉄則です。指導者が調べてみんなに伝えるのも良いでしょう。

 

 一番やってはいけないのは、これらの楽譜上の指示を無視して演奏することです。作曲者がどんな効果を期待してここにスタッカートを付けたのか、そこまで考えて初めて「楽譜を読む」行為が成立します。

 


3-03. 指示を楽譜に書き込もう

 全国大会のビデオを見ていて演奏者の楽譜が映ることがありますが、書き込みで真っ黒(あるいは色ペン使用でカラフル)になっている団体を見かけます。

 

 指導者が合奏中に指示をしたとして、その指示を楽譜に書き込まなかった奏者はたいてい、次の合奏でその指示を忘れてしまっています。楽譜に指示内容を書き込むことは、その指示をしっかり理解して実践へつなげる確実な手段となります。合奏中に指導者に言われた指示は、基本的に全部楽譜に書き込む。これは、上手なバンドへの第一歩です。合奏時は全員鉛筆を持参しましょう。

 

 書き込みをしていくと、「書き込みだらけでわけが分からない」状態になるかもしれません。そうしたら新しいパート譜を用意して、今までの書き込みを整理しまとめて、新しいパート譜にまた書き込んでいくという作業をするのも手です。これにより、今までの指示内容の復習もできるので、特にコンクール前などにオススメです。

 

 なお、コピーができず原譜を使用する場合は、他のメモ用紙などに指示を書いておきましょう。

 


3-04. 曲の途中を指示するとき

 指揮者・パートリーダーが合奏中・パート練習中に曲の途中を指示するとき、[A][B]などのリハーサル記号が役に立ちます(「[A]の3小節めのクラ、もっとていねいに」というふうに)。指導者がどこの小節を指示しているのかはっきりしていないと、奏者は困ってしまいます。指示をするときは、確実に該当小節を伝えましょう。

 

 メロディーが小節の前から始まっている時は「アウフタクト」という言葉が便利です。例えば、[A]の1小節前の3拍目からメロディーが始まっている場合「[A]のアウフタクトからやります」と言います。

 

 またリハーサル記号の他に、通しの小節番号で指示を出す方法もあります。「153小節めの…」というふうに、リハーサル番号より瞬時に場所が指定できるため、主にコンクール曲で使うといいでしょう。その際、楽譜に小節番号がふってないものは自分で数えて書き込みましょう。

 


3-05. 暗譜のススメ

 何回も同じ曲を練習していくと、だんだん楽譜が頭の中に入ってきます。楽譜がある程度覚えられると、指揮者を見る余裕ができて、全体が合ってきます。

 

 特にコンクール曲においては、曲の全部を暗記する「暗譜」が必要となります。コンクールの舞台では楽譜は単なる「お守り」のようなものです。完璧に暗譜をして、指揮者をずっと見ていましょう。

 


3-06. 移調楽器と実音

 楽譜上の「ド」を吹いても、実際ピアノの「ド」の音が出ない楽器を「移調楽器」といいます。例えばCl.は移調楽器の「B(ベー)管」といい、これは楽譜のドを吹いたらピアノの「シ♭」の音が出るということを表します。吹奏楽には移調楽器がたくさんあるので、スコアを見る際は、この移調楽器と実音の概念を知らないと話になりません。

 

 色々な調がある各楽器間で、まず音の高さを絶対的に示す共通語を設定します。それが「実音」です。実音はドイツ語を用いるのが一般的です。ピアノのドを「C(ツェー)」、レを「D(デー)」……というふうに決めます。そして他楽器に実音を当てはめていきます。それが下の表【1】~【3】です。

 

【1】

実音 → C
(ツェー)
D
(デー)
E
(エー)
F
(エフ)
G
(ゲー)
A
(ア-)
H
(ハー)
 
C管 ファ
 
F管 ファ#
 
B管 ファ# ド#
 
Es管 ド# ファ# ソ#
 


【2】

実音 → Cis
(チス)
Dis
(ディス)
Eis
(エイス)
Fis
(フィス)
Gis
(ギス)
Ais
(アイス)
His
(ヒス)
 
C管 ド# レ# ミ# ファ# ソ# ラ# シ#
 
F管 ソ# ラ# シ# ド# レ# ミ# ファ##
 
B管 レ# ミ# ファ## ソ# ラ# シ# ド##
 
Es管 ラ# シ# ド## レ# ミ# ファ## ソ##
 
※「##」はダブルシャープ


【3】

実音 → Ces
(ツェス)
Des
(デス)
Es
(エス)
Fes
(フェス)
Ges
(ゲス)
As
(アス)
B
(ベー)
 
C管 ド♭ レ♭ ミ♭ ファ♭ ソ♭ ラ♭ シ♭
 
F管 ソ♭ ラ♭ シ♭ ド♭ レ♭ ミ♭ ファ
 
B管 レ♭ ミ♭ ファ ソ♭ ラ♭ シ♭
 
Es管 ラ♭ シ♭ レ♭ ミ♭ ファ
 

 

 まずこの実音表を使い、自分の楽器の管の横列を奏者に覚えさせます(例えばF管だったら「F=ド、G=レ、……」というふうに)。例外を除き、#がつくと「is」をくっつけて、♭がつくと「es」をくっつける、と覚えればいいでしょう。

 

 それでは実際の使用法です。
・各パートの楽譜はそのまま「ドレミ」で読む
・合奏、セクション練習など、異なるパートがいるときの音の指示は「実音(ドイツ語)」で(例えば「そこのクラののばしはEsだよね」など)。

 

 注意しなくてはならないのは、ヘ音記号楽器(Trb. Euph. Tuba)です。これらの楽器はB管ですが、楽譜はC管で書かれています。この問題を解決する方法は2パターンあり、各団体によって異なっています。

【パターン1】「ドレミ」で呼ぶのをやめて、ぜんぶ実音で練習する
【パターン2】楽譜のシ♭の所をむりやり「ド」と読む

 ピアノの経験者などは、パターン2でやるのはかなりきついものがあります。各団体で考えてみてください。

 


3-07. Es管譜→C管譜の裏技

 

 指導者は、どんな管で書かれた楽譜でも、見た瞬間に実音が分かるのが理想です。しかし、実際はそうもいきませんので、合奏の時に読み替え表を傍らに置いて必要なときに見るという感じでも良いでしょう。

 

 ここで裏技を一つ。Es管で書かれた楽譜は、そのままヘ音記号読みをするとC管になります。ただし調号や臨時記号が出てきたときはそのつど確認してください。

 


3-08. 楽譜の浄書

 

 「楽譜なんてパソコンで音を打ち込んでいけば簡単にできる」と思っている人はいませんか? 実は、楽譜を作るのはそう簡単なものではないのです。

 楽譜は「浄書」という作業を経て出版されます。浄書とは「楽譜上の音符や記号を最も適切な位置に配置する」ことです。この浄書という作業は「浄書家」という人達によって行われます。スタッカートの位置ひとつを取っても漫然と置いていればいいものではなくて、隣の符頭との間隔、上下の五線との調和といった様々な要素を加味されて置かれており、完成度の高い楽譜は使いやすいだけではなく芸術品ともいえる存在となります。

 

 昔の楽譜制作は大変なものだったそうですが、最近はコンピュータの発達で便利になりました。しかしコンピュータに任せておけば良い楽譜ができるというのではなく、やはり人間の手が入らないと美しい楽譜はできません。そこを「コンピュータ浄書だから楽してきれいな楽譜が作れる」と勘違いして、コンピュータ浄書でも見にくい(=使いずらい)楽譜を作る出版社も残念ながら存在します。

 

 奏者からすると、楽譜は作曲者とのコンタクトをとれる唯一の手段です。それだけ、楽譜は大切で意味深いものです。私たちが普段目にしている楽譜も、楽譜を見やすく美しく作ろうと頑張っている方々の努力の成果だということを、頭に入れておいてください。

 


3-09. 楽譜浄書ソフト

 

 「学校の校歌をちゃんとした楽譜にしたい」という望みも、コンピュータの進歩のおかげでかなえられるようになってきました。「手軽に楽譜を作りたい」という人のために、安価で操作性に優れた楽譜制作ソフトも出てきています。

 

 例えば「Finale」というソフトは浄書のプロも使っており、音符の縮小率から符尾の長さまで細かい設定ができます。またFinaleの廉価版で、機能は少し制限されますが安く入手できるものもあります。フリーソフトもありますが、楽譜の見易さという点からするとどうしても劣ってしまうものもあり、団体として安いものでもソフトを購入することをお勧めします。

 

 コンピュータで楽譜を作るメリットは、ある程度きれいな楽譜ができるのに加え、「その場で音を出して楽譜を確認できる」ことがあります。楽譜を入力するだけで、そのデータをもとに「コンピュータ吹奏楽団」が音を出してくれます。

 


3-10. 誤植・楽譜ミス

 

 困ったことに、現在出版されている吹奏楽の楽譜には、アーティキュレーションのつけ間違いや臨時記号が落ちていたりなど、誤植があるものが一部に存在しています。演奏していておかしいと感じた場合には、パート譜とスコアとを照合し、他パートの動きも見ながら確認します。

 誤植の頻度は出版社にもより、なかには一曲で100箇所以上の誤植を出している出版社もあります。

 


3-11. スコアの読み方

 

 スコア(総譜)には「フルスコア(全てのパートの楽譜が載っている)」と「コンデンススコア(全体が3~4段譜にまとめてある)」の2種類があります。

 

 フルスコアには、上から木管・金管・打楽器の順で配置されています。指揮者は、スコアをパッと見ただけ で、この段は何のパートかということを視覚的に覚えておく必要があります(「真ん中ちょっと上のこの4段はサックスセクションだ」などと)。いちいち左端のパート名を見なくても楽器名が分かるようにしておきましょう。

 対してコンデンススコアは、楽曲の構造が分かりやすく理解できるものです。課題曲の楽譜も、フルスコアの他にコンデンススコアもついてきますので活用ができます。

 

 スコアの最上段に書かれる情報は、主に指揮者に向けてのものが多いです(リハーサル記号、速度指定など)。

 


3-12. 楽譜の知識

 

【Tempo I】「テンポ・アイ」と読んではいけない。正しくは「テンポ・プリモ」。曲の始めの速さでという意味。

【a2】「ア・ドゥエ」と読む。div.していたパートがユニゾンでやるという指定。

 

【f-mf】リピート記号中で使われる。一回目はfで、二回目はmfで、という意味。

【ヒゲ】音符と休符の間にかかっているタイのようなもの。俗に「ヒゲ」などと呼ばれ、打楽器の楽譜によく出てくる。これは「その音を叩き終わってもすぐに手で止めず、余韻を残す」という意味。

 


3-13. 譜めくり

 

 楽譜が3ページ以上になる場合は、曲中のどこかで譜めくりをする必要があります。譜めくりがうまくいかないと、見た目的にもかっこわるいし、第一演奏に影響がでるので注意したい所です。

 

 譜めくりをする時は「吹きながら譜めくりをする」「わずかな休符の間に譜めくりをする」ことが無いようにしましょう。ページの末尾に長い小節の休みが無い場合、次ページの譜めくりが可能な箇所までの楽譜を書き写して前のページに張り付ける等工夫して、譜めくりがスムーズに行えるようにしておきましょう。

 


3-14. 書き込みの実際

 

 3-03.で見たように、合奏中に指示された事項を楽譜に書き込むのは大事な事です。しかし、書き込み方が悪いと効果は半減してしまいます。ありがちな悪い例として、細かい字で指揮者の言う事をそのまま文章の形で書き込むことが挙げられます。これだと、後でじっくり見直す時には役に立つかもしれません が、実際に演奏中こんな書

き込みを見ても、演奏にすぐ反映させるのは難しいものです。

 

 書き込みの際は、文章の形ではなく「記号で簡潔に」書き込むことが重要です。そもそも楽譜においては、「ドレミ」という音の名前がそのま ま書いてあるのではなく、実際は「音符」という形でそれが視覚化されて表されています。なので指示を書き込む時も、文章でなく記号化して書くのはもっとも なことなのです。以下に、その例をいくつか挙げておきます。これを参考に、自分が見やすいような記号を作ってください。

 

 <,> ……クレッシェンドやデクレッシェンドの指示を示す。(楽譜に"cresc."や"dim."と指示がある時も、実際にこうやって図形で改めて書くと視覚的に分かりやすい)
 ○ ……音符をマルで囲む。重要な音だということを示す。
 → ……矢印の先の音に向かってテンション等を上げる事を示す。

 ↑,↓ ……音符の近くに書く。↑は、その音は低くなりやすいから高めに(↓はその逆)ということを示す。
 ♪┤ ……その音は短くなりやすいから、しっかり音価通りのばすようにということを示す。
 □,横向きの△等 ……その音の音形を示す。
 1,3,5等 ……その音が和音の構成音として何音なのかを示す。例えば長調の3音なら低めという事で「↓」も書いておくとよい。

 

 楽譜への書き込みは、ただそれだけでは意味がありません。書き込んだその注意を実践する事が大事なのです。注意を実践できるような、機能的な書き込みができるように工夫しましょう。

 


【紹介】 『やさしくわかる楽典』(青島 広志/日本実業出版社)

 

 これまで楽典というと、音大受験用のこ難しいものか、初心者用の内容が薄っぺらいものが多くありました。しかしこの『やさし くわかる楽典』は、わかりやすく同時に内容も充実しています。レイアウトも洗練されてて見やすく、各所に入っているコラムも興味深いものばかり。多少オケ寄りの説明にはなっていますが、吹奏楽の人でも十分に役立つ内容です。楽典初心者の人もある程度知っている人も、楽しみながら楽典を学べると思います。

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楽譜のおさほう